「Keith 完全復活」
PROGRAM
5月の大型連休も終わってから1週間が経とうとしているが、僕は興奮がいまだに冷めることなく続くくらいの、ものすごいコンサートをニューヨークに聴きに出かけてきたので、是非ここで報告しようと思う。
 冒頭のタイトルでお察しかと思うが、キースがゲイリー・ピーコックとジャック・ディジョネットとのトリオで、カーネギーホールにてコンサートを行ったのである。
 5月6日(土)午後8時から始まったこのコンサートは、キース・トリオがニューヨークで5年ぶりに行う待望のコンサートということもあり、当日は通常の開演前の期待にあふれる華やかな雰囲気だけでなく、長いこと病気の治療に時間を費やさざるを得なかったキースの復活をじっと待ち続けた多くのファン、関係者等の緊張と言ってもいいような雰囲気が感じられた。
 ちょっと余談になるが、キースが僕のために用意してくれた招待券を受け取りに招待受付に出向いた時、そこで偶然にもパット・メセニーと会ったのである。本当に久しぶりだったのだが、パットは「結婚して2人の子供がいるんだ。1人は2歳でもう1人は彼女のお腹の中」と、嬉しそうに言いながら、僕に奥さんを紹介してくれた。パットもこのコンサートを楽しみにしているようで、「He is the very important musician」(彼はとても重要な音楽家だ)とキースのことを語っていた。
 さていよいよコンサートなのだが、2階正面バルコニー最前列の席に着くと、近くのボックス席にロザーン(キースの奥さん)とキースの子供達、それからキースのお父さんがいるのが見えた。ロザーンも僕に気がついてこちらにやってくると、彼女のお母さんまで紹介してくれた。キースのファミリーが、こうやって皆コンサートに足を運んできているということは、やはり彼らにとっても、キースのニューヨークで行う久しぶりのコンサートが、重要な意味を持つものであるに違いないと感じた。そしてこれだけの家族をよんでコンサートを行うキース本人にとっても、同じように感慨深く記念すべき一夜だったのだろう。舞台の上にマイクが用意されているなと思っていたら、演奏前にキースが次のようなスピーチをしたのである。
 「今日このステージに立て、演奏することが出来るのは、まず第1に妻の最大限の努力のおかげであり、(ここで会場は割れんばかりの大拍手)そして第2にジャックとゲイリーの音楽的フレンドシップとサポートのおかげです。感謝します。」
もちろんここでも会場は拍手喝采である。とにかく、病に苦しんだ彼の苦労を思うにつけ、そこに居合わせた全ての人々は、演奏が始まる前から感極まっているといった感じなのである。そして、演奏が始まれば、キースの自在に動き回る指の動きが、ほとんど全ての観客の心を完全につかみ取ってしまい、1部終了時にスタンディング・オベイションとなるほどの、それは素晴らしい演奏だったのだ。キースの完全な復活を確信したかのように拍手を続ける観客に応える形で、キースは再びジャックとゲイリーと共に現れて、挨拶をした。こんな事は、僕の長いキースとのつきあいの中でも初めてのことである。
 僕はこのコンサートのためにニューヨークまで出向いて、本当に良かったとこの時心から思った。キースの弾くピアノは、今まで思うようにならなかった事を吹き払うかのように激しく、そして柔らかく、存在すら忘れさせてしまうのではないかと思うくらいの強い力で、観客の心を彼独自の音楽世界へと誘い、言葉にすら出来そうにない感動という宝を、そっと渡してくれたのだ。以前、ニュージャージーでの同じトリオの演奏時には、病気の回復期だったこともあり、どこか慎重さを隠しきれず、ドラムとベースに時間を割く内容となっていたのだが、今回はほとんどキースが弾きまくり、アンコールの時など、ほとんどソロのようなスタイルで演奏していた。僕は、かつて日本でトリオの演奏だけでも百数十回聴いてきたけれど、それらと比べても、この日の演奏は際だって素晴らしかったと思う。
 2部のラストの曲「Only The Lonely」では観客が総立ちになり、その後3曲のアンコールを行ったのだが、アンコール3曲目の「When I Fall In Love 」の頃には、爆発するばかりの興奮に会場がつつまれていた。
 この日の終演後、僕は楽屋にキースを訪ねていったが、とにかくこのコンサートを無事にそして大成功で終えたキースは、気持ちが乗りに乗っているという感じで、「トシナリ、時差ボケは治ったかい?」なんて軽口をたたきながら、大歓迎してくれた。体調も完全に元通りになった様子で、今後のキースの音楽活動が、どのように展開していくのかを思っても、明るい要素しか思い浮かばない位のエネルギーを感じられたように思う。
 参考までに付け加えると、5月10日付けの「New York Times」に、この公演のコンサート評が掲載されているので、興味のある人は是非ご覧になるといいと思う。
<曲目リスト>
<First Set >
1) Joy Spring
2) Here' s That Rainy Day
3) Four Brothers
4) I'll See You Again
5) Round Midnight

<Second Set >
1) Night and Day
2) In Your Own Sweet Way ( Dave Brubeck )
Stars Fell On Alabama
3) One For Majid ( Pete La Rocca )
4) So Tender ( Keith Jarrett )
5) Only the Lonely

<Encores>
1) Woody'n You ( Dizzy Gillespie)
2) A John Lewis tune from the Golden Striker LP (Title?)
3) When I Fall In Love