キース・ジャレットは一見クールそうに見えるけど、 あれで存外に気配りをするタイプなんだ。2人とも、お互いの 嗜好は充分知っているつもりだから、いいものを見つけると それを紹介しあうのが、なんとなく習わしとなっている。例えば、 僕が使っているフィリップス社製のポータブルCDプレイヤーはキースが 使っている物と同じだし、お互いに世界中を旅しているから、ホテルや レストランの情報のやり取りをすることもある。何年か前に「ブルガリ アン・ボイス」がヒットし始める直前には、わざわざCDを買ってきて ”トシナリ、このグループのサウンドはお前の好みだと思ったんだ。日本 公演をプロモートしたらいいんじゃないか?”なんて言ってくれたことも ある。(残念ながら、その時はもう招聘プロモーターは決定していた) とにかく、僕はキースが”Good!”という物を信頼することに決めているんだ。
 そこで、またこの前のキースの日本公演の時の話に戻るんだけど、 コンサートが終了した翌日、成田に向かうリムジンの中でキースと僕 はこんな話をした。

「トシナリ、これが終わったら今度は何をやるんだ?」

「綾戸智絵というヴォーカリストと、クラシック・ピアノのアワダジン・プ
ラッドと2つツアーがあって、来年は3月にカーラ・ブレイをやるんだ」

「カーラはスティーヴ・スワロウとのデュオかい?それともオーケストラ?」

「いや、今回はチェンバー・ミュージックなんだ。」

「なんだい、チェンバー・ミュージックって?」

「クラシックの小品集って感じかな。ストリング・カルテットに何本かの管
楽器、それにパーカッションとジャズ・ドラムが加わるんだ。もちろんス
ティーブのベースも一緒にね。そのユニットでカーラのオリジナルを演奏する
んだよ」

「東京公演だけなのかい?」

「そう。東京公演一回きり。でも、リハーサルは3日間やって、東京公演のた
めの書き下ろし曲もあるんだよ」

キースは”フーン”とちょっと驚いた表情を浮かべると、カーラの音楽について話
し始めた。

「カーラの音楽は、以前から素晴らしいと思っていたんだ。作曲も、アレンジ
も、彼女のスタイルは本当にチャーミングだ。サウンド全体にすごくセンスを
感じるね。機会があれば、僕も聴きたいくらいだよ」

 キースが他のアーティストをこんな風に誉めるのは、非常にめずらしいことなん
だ。キースの話を聞いていた僕までが、プロモーターの立場を飛び越えて、来春3
月のコンサートが楽しみになってきた。ちなみに、キースは最後にこんなことを
言って笑っていたよ。

 「まるであの『トーキョー・ミュージック・ジョイ』が復活したような感じじゃな
いか。」