つい最近、1955年に録音されたグールドのデビュー・アルバム「ゴールドベルク変奏曲」がステレオで発売されるという話を聞きました。昔はモノラルで録音されたLPが疑似ステレオで発売されることがよくありましたが、今回のステレオ化のアイデアはユニークです。グールドの演奏を自動ピアノに演奏させて、新たにステレオで録音し直そうという画期的な試みです。出来上がりを聞いてみないと分かりませんが、デジタル技術の進歩があってこその斬新な企画だと思います。

何か新しいことに挑戦するというのは刺激的です。ぼくはミュージシャンにも常にそれを期待しています。自分の代表作を問われた時にマイルス・デイビスが「ネクスト・ワン」と答えたように、斬新なサウンドを求めて前進する演奏家にとても魅力を感じます。それはジャズであろうがクラシックであろうが同じことで、音楽を楽しむのにジャンルは必要ありません。ジャンルは、レコード会社やCDショップが商品を分類する為に便宜的に必要なだけですから、ファンがジャンルに縛られることはありません。世界中には色々な音楽があり、多くの一流の演奏家がいます。ぼくは、一流の音楽家を見つけ出し、多くのファンに愛され楽しんでもらう音楽を提供することが好きなだけです。年明け早々4度目の来日を果たすe.s.t.のエスビョルン・スヴェンソンが新作「チューズデイ・ワンダーランド」について、こう答えています。

“当初は、バッハの「平均律クラヴィーア」のような、前奏曲とフーガから成る作品を作ろうとしたけれど、作品が出来上がって演奏してみると、しっくりいかず、結局、色々と再構築したので時間がかかってしまった。もともと僕たちは誰一人として生粋のジャズ・ミュージシャンじゃないし、3人とも異なった音楽的バックグラウンドで育ったから、一緒に演奏することが楽しくエキサイティングなんだ。”
(渡辺 亨=文/エスクァイア日本版2007年1月号より抜粋)

スヴェンソンの言葉を読んで、ぼくは、20年以上前に武満徹さんが深く関わり企画をサポートしてくれたTOKYO MUSIC JOYのことを思い出しました。世界各地から、音楽のジャンルを越え、斬新なサウンドを演奏する一流の音楽家を集めた、音楽の楽しさ満開のTMJ。ぼくたちが目指した、このフィロソフィーを1993年の結成当時から実践しているのがe.s.tなのです。