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「至福の時 〜『TRIO JAZZ』公演を終えて」 今回、鯉沼社長の粋な計らいによって、レコード会社のECM担当である私が、コンサート・スタッフの一員(アシスタント)としてツアーの全行程に参加させていただいた。レコード会社の人間は、アーティストの生み出す産物(CDやコンサート)には日常茶飯事のように接しているが、彼らがそれを生み出すまでの過程に立ち合う事は、実はあまり多くない。特に海外のアーティストの場合はなおさらである。そうした意味で、このツアーは私にとって本当に新鮮かつ至福の毎日であった。 例えばコンサート当日、会場入りすると彼らは楽屋で一息つく間もなくステージに登り、3人で演奏を始める。その出だしの1音から、全くもって見事なトリオの音楽宇宙が描かれるのだ。これまで何百回となくステージを共にしてきた彼らにとって、そんなことは当たり前のことなのかもしれない。しかし、何を今更と言われるかもしれないが、あまりにも自然にトリオの世界に没入して行く彼らの姿を目の当たりにして、私は思わず鳥肌が立った。 興味深かったのは、キースが何気なく弾き出したメロディーにゲイリーとジャックが合わせていく。それは古いラグタイム調の曲で、普段のステージでの彼らの演奏とは少々毛色の異なるものであった。そして、その曲が終わった時に見せた3人の無邪気な笑顔! それはまるで初めて楽器をモノにしたかような子供のそれであった。音楽と純粋に対峙する姿勢をいつまでも失わないこと。それこそが、19年に及ぶ3人の関係をいつまでも新鮮なままにしているのだとこの時実感した。 このことは、東京公演で披露されたフリー・インプロヴィゼーションに最も象徴されているように思う。ご覧になった方はおわかりかと思うが、この演奏は"フリー・ジャズ"なんていう陳腐な枠組みに収めることなんて到底できない、純粋な魂のぶつかり合いそのものである。(キースによると、昨年夏にロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールでトリオが行なった全編フリーによる最新ライヴ盤『インサイド・アウト』を、10月にリリースするそうである。) 最後に、余談であるが、最終日の東京文化会館公演には、はるばる韓国と台湾から私と同じECM担当者たちが観にやって来た。キースは彼らの国ではコンサートをまだ一度も行っていない。それなのに日本はというと、次回の来日公演では150回目を数えようとしている。これは30年以上に亘る鯉沼社長とキースとのビジネスを超えた信頼関係の賜物であることは言うまでもない。自分が日本に住んでいることを、久し振りに幸運に感じた。 斉藤嘉久(ユニバーサル ジャズ) |