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アンドラーシュ・シフといえば、今最も脂の乗っているクラシック・ピアニストですが、彼の今年3月から来年11月まで決定しているヨーロッパ・ツアーは全117公演。その中にはロンドン連続6公演 (6月1~6日) やスイスはチューリッヒでの2週間9回公演 (5月2~15日) までがありながら、その中に日本公演は含まれていません。ブーニンは今も完売を誇りながら、世界的に注目されているツィメルマンのチケット・セールスは1,000枚足らず・・・といった日本の状況を物語るものでしょう。そしてそのアンドラーシュ・シフのジャズ版、ともいえるのがスウェーデンのピアノ・トリオ e.s.t. です。  1993年にアルバム・デビューした e.s.t. の評価はスウェーデン国内からスカンジナヴィア諸国、さらには1999年の5作目を境にヨーロッパ中に広まり、2001年には米デビューを果たしました。そして7作目にあたる『ストレンジ・プレイス・フォー・スノウ』(2002年作) での本邦デビューと同時に弊社では2003年6月の《The Synergy Live》で初招聘、2004年4月と2005年6月には単独公演を行ない、彼らの魅力は徐々に広まってきた実感はあります。が、ヨーロッパでの絶大な人気と高評価を思うと、しかるべき評価はまだ充分ではなく、その存在は気づかれていないに等しい、というのが現状です。  アメリカでもつい先頃まで日本と同じ状況でした。が、米デビューから5年、遂にe.s.t. は欧州のグループとしては初めて世界的ジャズ誌ダウンビート (2006年5月号) のカヴァー・アーティストになりました。02年の初米ツアーは何のサポートもないような中で行なわれたため、主要都市のクラブ公演ながら「聴衆はどこでも20人程度・・・」といった結果で、経済的にも精神的にもかなりの打撃を負ったことを同ダウンビート誌の記事の中で告白しています。しかしヨーロッパで数々の音楽賞を受賞し当地での評価がさらに高まる中、パット・メセニーの口コミ (インタヴューの中で折に触れ e.s.t. について語ってくれたよう) や、K.D. ラングのホール~スタジアム級全米ツアーのオープニング・アクトなども彼らの後押しになったようです。そして、米コロンビアとの関係は自ら断った e.s.t.でしたが、自らのプロダクションで制作した『ヴァイアティカム』を「2005年のベストの一つ」といわしめ、その高評価をライヴでも見せつけたことが、ダウンビート誌の表紙に繋がったのでしょう。「米国では無視された、しかしヨーロッパではロック・スター級の扱いを受けている、グローバル・ジャズ・シーンに衝撃を与える欧州ミュージシャンの新世代をリードするスウェーデンのトリオ」ーーという紹介のされ方は、欧州と米国とのギャップと共に、米国でも無視できない存在になったことを物語っているように思います。  彼らはこう語っていました、「メロディーはポップスのように熱く、そしてグルーヴを融和させて、ジャズでもあるポップスを演奏してきた」と。  印象深いメロディーを響かせつ、エフェクターを効果的に駆使して生み出すサウンドをライヴで自在に織り込み、清々しくダイナミックに繰り広げるアコースティック演奏。自国のみならずドイツやフランスでもポップ・チャートに上り、MTVスカンジナヴィアではそのヴィデオが流れる。既存のポップスに満たされない(ないしは飽き足らない)ポップス・ファンから、鋭い耳と柔軟でオープンな心を持つジャズ・ファンまでを魅了する、スウェーデンのユニークな”ジャズを演奏するポップ・バンド”ーー e.s.t.。  彼らの音楽、その素晴らしいライヴ・パフォーマンスを、もっともっと多くの音楽ファンに!と願ってやみません。e.s.t. 4度目の来日公演、ぜひとも御注目ください。
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