1曲目は「タイド・オブ・トレパディション」。3月にリリースされたニュー・アルバム『ヴァイアティカム』でもオープニングを飾っていた作品だ。3つのスポット・ライトに映し出されたエスビョルン・スヴェンソン(p)、ダン・ベルグルンド(b)、マグヌス・オストロム(ds)は、黙々と仕事をこなす職人のように、目配せすることもなく、ひたすら音とリズムを重ね合わせていく。周囲に独特の緊張感を与え、彼らと楽器だけが存在している世界に、いつしかどっぷりと漬かっている自分を感じたのは、ピアノの上に置かれたギター用エフェクター、LINE6のPODから送り出されたSEが完全に消えた時だった。続く「88デイズ・イン・マイ・ヴェインズ」も新作からで、ベルグルンドのベースが非常に印象的。
 自由で幻想的なサウンドは、繊細でありながらかなりアグレッシヴだ。しかも3人のテンションは常に同じ高さをキープしている。これは、決して簡単なことではないはず。そんなことを感じながら、ファースト・セットの4曲が終了

〜中略〜

 結成して12年。すでに多くの賞を受賞し、確固たる地位を築き上げているe.s.t.は、この先、どんな風に変化していくのか。その興味は、今回のステージでますます膨らんだが、それを追い続けるのが、やはりファンやリスナーの醍醐味というものだ。
 最後に。ピアノ・トリオはCDで楽しめれば充分、そんな声を耳にすることがあるけれど、e.s.t.のライヴを観れば、それが単なる思い込みだったことに気が付く人、きっと多いのではないだろうか。

ライター:菅野 聖

JAZZ LIFE 8月号より抜粋