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横浜・関内ホールと渋谷・文化村オーチャードホールで二日続けてe.s.t.のコ ンサートを見た。世界のジャーナリズムがこぞってe.s.t.を褒め称えているけれど、“ジャズと は何かではなく、ジャズがどこまで可能かを示すことが出来るトリオ”というニューヨークタイムズの批評が最も的を得た批評だろう。ところが、残念なことに、20世紀後半から現在にいたるまで、人気、実力ともにぶっちぎりで疾走してきたキース・ジャレット・トリオの地位を脅かす唯一のユニッ トがe.s.t.だということに気付いていないのは、日本のジャーナリズムとジャズ・ファン だけのようだ。そのことは、2003年にヨーロッパの先鋭的ピアノ・トリオを招いたジャズ・イベントThe Synergy Liveで初来日し、2004年の単独公演に続いて今年は待望の3度目の公演にもかかわらず、横浜、東京、両公演ともに空席が目立つことが証明している。とは言え、毎年倍々ゲームで観客は増え続けているので、近い将来チケットが 買えなくなることは目に見えているが。

横浜と東京、2日続けて見たe.s.t.は、予想以上にスケール・アップして強力 なユニットに成長していた。緻密さに裏付けされたダイナミック・レンジの広い3人が一丸となった演奏が 繰り広げられるので、一瞬たりとも目も耳もステージから逸らすことが出来ない。一音一音、慎重に音を選びながらも時には大胆に鍵盤の上を飛び跳ねるスヴェ ンソンのピアノは、どんなに早いフレーズを弾いても音の輪郭が崩れないので、100%安心して演奏に身を委ねることが出来る。そのスヴェンソンにピッタリとより添いながらも、時には挑発してサウンドを カラフルに塗り替えるのがベースのベルグルンド。一切無駄な音を叩かず、適確なフォーに終始しているにもかかわらず緊張感を生みだすドラマー、オストロム。さらに付け加えなくてはいけないのが、ステージ上で3人がつくりあげる贅肉 一つない切れ味鋭いサウンドを見事に色付けするPAエンジニアのオーケ・リントンの存在だ。彼が加わることによりe.s.t.はメンバー不動の4人編成のトリオとなり、鉄壁 のサウンドを堪能させてくる。スリリングなライブとしての面白さは関内ホールに軍配があがるが、オーチャードホールでは、まるできっちりチューニングされた巨大なオーディオ・システムで再生しているような定位のしっかりしたステレオ感のあるサウンドと、スヴェンソンの指使いをくっきりと浮かび上がらせたスポット・ライトのセンスが息を飲ませた。

24日関内ホールのオープニングに演奏された「アイ・ミーン・ユー」に始まり、25日オーチャードホールのアンコール曲「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」に 至るまで、モンクで始まりモンクで終わったe.s.t.。20世紀初頭アメリカ南部の娼婦たむろす安酒場で生まれ育ったBGMなジャズが、100年かけて成長した至高のサウンドに身を浸す歓びはこの上ない。一体どこまで進化するのだろう、ジャズは。そして、単に演奏が優れているだけではなく、視聴覚すべてを満足させるまれ に見る素敵なこのコンサートを、どのジャーナリズムが、どんな批評家が、どのように語ってくれるのかが、今残された唯一の楽しみだ。

磯田秀人